世界にはおよそ5億頭の犬が暮らしています。約700〜800種といわれる多様なバリエーションはどのようにして誕生したのか。一般的にはオオカミが犬の祖先だと認識されていますが、このブログではさらに遡って約6,600万年前。恐竜や多くの生物が絶滅した後の世界からイヌの起源を見ていこうと思います。

哺乳類の快進撃が始まる暁新世、わずかに生き残ったものの中にイヌの祖はいました。

遠い昔、イヌの祖は北アメリカで誕生した

現在のイヌはネコ目イヌ科イヌ属に分類されます。イヌなのにネコ?

多くの人が首をかしげますが、このネコ目にはネコ、イヌはもちろんアシカやアザラシ、クマなんかも入ります。ネコ目は食肉目とも表され、目、ヒゲ、歯など獲物を狩るために特化した器官が備わっています。

このネコ目の祖先といわれているのがミアキスという哺乳類。

約5,500万年前にミアキスは北アメリカで誕生し、ここから多くのネコ目(食肉目)に分岐していくのです。

北アメリカで誕生したミアキスは程なくしていわゆるネコ科が分類されるネコ亜目と、イヌ・クマ・アザラシなどが分類されるイヌ亜目に分かれます。この二つの違いは内耳の構造にあります。

イヌ科はやがて肉を切り裂くための歯を進化させ効率よく獲物を得ることができるように。しかし肉食と言えど植物性のものも栄養源にしていたため、完全な肉食動物に比べて生存競争で有利な結果になりました。おかげでイヌ属・キツネ属・ハイイロギツネ属etc…と分岐、多様性が生まれ世界へと広がってゆきます。

現在のアメリカ大陸とユーラシア大陸が陸地で繋がっていた頃、イヌ科はユーラシア大陸、アフリカ大陸へと足を伸ばします。各大陸でタヌキ属・キツネ属・リカオン属etc…とさらに遠縁種を増やし約5000年前には南極を除く全ての大陸にイヌ科は進出しました。

人間が家畜化したのか、イヌが歩み寄ったのか問題

オオカミが現生のイヌと一番近い種であることはもはや一般常識ですが、一体どの時点で、どのようにしてオオカミとイヌは分かれていったのか、正直なところまだまだ議論の余地があるといえます。

イヌ科がすでに世界中に散らばった40万〜50万年ほど前、ヒトは起源であるアフリカ大陸を離れ徐々に各大陸へ放散していく段階でした。その途中にオオカミと出会ったといいます。詳しく見てみると、ヒトが定住し始めた6〜4万年前。ヨーロッパとアジアに住み着いた人類が初めてオオカミと出会います。

現在では主に⑴オオカミの子を社会化させる ⑵オオカミが自ら家畜となる ⑶オオカミが好きな人間がいた ⑷イヌの役割の多様化 の4つが家畜化の経緯に関係しているとみられます。

⑴オオカミの子を社会化させる(個体単位での選択)

野生のイヌ科の子は人間に対して懐っこい個体がいたり攻撃的な個体がいて、多様な態度を示す。人間に育てられた中で「正しい気性」、つまり人間に対して攻撃性も恐怖心もなく、温和な態度をとるオオカミの子が、何世代もかけて選別された。

一個体づつ選択していく方法は現代のブリーディングに近い
⑵オオカミが自らの手で家畜となる(集団単位での選択)

人間が狩猟や生活の中で出す大量の生ゴミが新たな食料源となったので、一部のイヌ科の集団は何世代にも渡ってこれを利用してきた。小柄な個体はこの食料で生き延びることができ、人間への恐怖心もなかったので野生の集団から徐々に分離していった。

狩りに出る必要性が低くなり、小柄な個体も生き残りやすくなった
⑶オオカミが好きな人間がいた(人間集団の選択)

イヌ科の行動を観察すると人間にとって狩猟や定住の役に立つかもしれない。イヌ科動物に対して親しみを持つ傾向がある人間集団は、イヌ科動物の集団から見ても近づきやすい存在だった。結果、イヌ好きの人間と人間好きの犬が両者に広まった。

⑷イヌの役割の多様化

もともとイヌにはわずかな役割しかなかったが、後に人間がイヌを様々なタスクに活用する方法、例えば狩猟のパートナー、暖をとる熱源、見張り、ソリ引きの動力、食料源などを見出した。

食料にすることも

家畜化については今日も議論が交わされていますが概ね、人間と犬の利害が一致してお互いの生活圏が重なっていった結果、人間にとって都合のいい個体を選んでの繁殖を始めたようです。

この時点ではまだ個々の見た目に差は見られませんでした。岩面彫刻などには尾はカールしていて耳が垂れているイヌたちが見張りなどをしている様子が描かれています。

ローマ時代になると働き手として体格を大きくするための選択が行われていたのは確実なようです。それと同時に見た目を重視するような選択が始まりました。体が小さく扱いやすい、いわゆる“抱き犬”が一般的になります。

より見た目も役割も多様化するのは1760年代、産業革命で世界に名を轟かせていたイギリスが発端です。馬や羊のブリーディング技術が確立され、それを犬に流用したことで現代の犬種に繋がるような犬が数多く誕生しました。

約800種と言われる現生の犬種のほとんどはその後のわずか200年から150年の間に生み出され、その子孫が日本中、世界中の家庭犬、使役犬として働いてくれています。

進む、選択的な、交配

人は犬を生物の中で初めて家畜化してから今日までの約1万5000年、私たちは彼らにたくさんの用途を見出し、各作業に見合う姿形へ変化させてきました。純血種の多くは偶然その姿になったわけではなく、人間が繁殖を管理して作られた人為的なものです。

例えば、胴長短足が可愛いウェルシュ・コーギー・ペンブローグ(いわゆる一般的なコーギー)は牛を追う仕事が与えられていました。牛を追うためには、蹴られたり踏まれたりしないサイズの個体が必要だったので、より足が短いものが選択されて現在の姿になりました。

しかし、生まれながらの形質異常を抱えている問題を無視してはいけません。その短い脚に、頭や胴体の大きさは比例せずためらわずに言うとすればアンバランスな見た目です。アンバランス故に体重を支えきれず、将来脊髄や腰に支障がでる可能性が他の純血種と比べて高いです。これはコーギーに限らず胴長短足の犬全てに言えることです。

ヒトはそれを可愛いと言いますが、人が犬に利便さを求めすぎて犬たち自身の健康を損なっていると思いませんか?

コーギーの他にも短頭種(パグやフレンチ・ブルドッグなど鼻口部が極端に短い種類)が抱える呼吸器疾患のリスク、反対咬合などはその愛らしい顔に似合わず意外と深刻です。呼吸によって体温調節する犬にとって長いマズル(鼻口部)は重要ですが、短頭種はその呼吸によって体温を下げる力が乏しいので、猛暑の中お出かけするのはとても危険ですし、稀に激しい運動でも呼吸困難に陥ることがあります。

そもそも短頭種は牛と流血するまで戦わせるベイティングと言う娯楽のために作られた闘犬(ブルドッグなど)と交配されたものが多く、牛のお腹に噛み付いても呼吸ができるようマズルが短く作られました。現在ベイティングは多くの国、地域で禁止されています。

健康問題を抱えてまでマズルを短くする必要はもはやないのですが、世界にはその形状を好む人間もいるわけで…

その一方で、一部には先天的な疾患のリスクがなくなるまでマズルの長さを元に戻そうと動く世界のブリーダーもいます。

100%なんの病気のリスクもない生き物はいないですが、ブリーディングの段階で避けられるリスクは避けるべきではないかと、私は思うのです。

スタンダードという名のヒトのエゴ

選択的な交配による形質異常とは別に、もう一つ私たちが考えなければいけない問題があります。

ペットショップに並ぶ子犬たちにはそれぞれ犬種がありますが、それは全て“スタンダード”という規定にのっとっています。

例えばラブラドール・レトリーバーのスタンダードを見てみると…

習性/性格
気立てが良く、たいへん聡明である。嗅覚は優れており、ソフトマウスで、水をたいへん好む。適応性があり、献身的な伴侶である。理解力があり、鋭敏で、柔順で、人に喜ばれるのを好む。生まれつき優しく、攻撃的でもなければ、過度にシャイでもない。

サイズ
理想体高 牡:56~57cm 牝:54~56cm

用途
レトリーバー

一般外貌
力強い体躯構成で、ショート・カプルドで、たいへん活動的である(それが過体重やサブスタンスを防いでいる)。スカルは幅広く、胸と肋は幅広く深い。腰及び後肢は幅広く、力強い。

毛色
全体的にブラックあるいはイエロー、レバー/チョコレートである。イエローは明るいクリーム色からレッド・フォックスまである。胸にある小さなホワイトの斑は許容される。

一般社団法人 ジャパンケネルクラブHP

といった具合に、“ラブラドール・レトリーバーはこうあるべき”といった指標があります。世界中のブリーダーさんはこういったスタンダードに近づけるようブリーディングし、純血種のクオリティを高めています。

中には“断尾”(だんび)といって尾を短く切断することをスタンダードに含めている犬種があります。主に家畜追いや警護の仕事を担っていた犬種に多いのですが、大きな動物に踏まれて怪我をしたり、仕事の支障になるのを防ぐために断尾は行われていた歴史があります。生後まもない頃、麻酔なしで切断されるか、尾をきつく縛り腐り落ちるのを待って切断する方法があります。ペットショップなどに並ぶ前の段階で断尾するので、元々尻尾があるとは知らずに購入する人、もしくはずっとこの事実を知らないまま犬と暮らしている人が多いです。

同じように“断耳”(だんじ)もあり、こちらは耳を切断するのではなく(一部の犬種には切断する習慣あり)耳の軟骨を外科手術で切り、垂れ耳を立たせることをいいます。威厳や力強さを増すために主に警護の仕事をしている犬に施されることが多いです。

断尾と断耳

断尾・断耳を施されている日本で一般的な犬種は主に以下の種類があります。

断尾の習慣がある犬種
  • ウェルシュ・コーギー・ペンブローク
  • オールド・イングリッシュ・シープドッグ
  • スキッパーキ
  • ミニチュア・シュナウザー
  • ミニチュア・ピンシャー
  • ドーベルマン
  • ボクサー
  • ロットワイラー
  • ジャック・ラッセル・テリア
  • プードル
  • キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル 等…
断耳の習慣がある犬種
  • ミニチュア・シュナウザー
  • ミニチュア・ピンシャー
  • ドーベルマン
  • ボクサー
  • ボストン・テリア 等…

とても身近な犬たちが名を連ねていることに驚きませんか?今はその習慣はなくても以前は断尾していた種もあります。断尾や断耳は犬が担っていた仕事が理由で施されていた歴史がありますが、現在の犬はほとんど本来の仕事からは遠のき、家庭犬としての仕事をしています。

近年では動物愛護の観点からヨーロッパを中心に断尾、断耳を禁止している国もありますが日本は特に規制されていません。

社会の成熟とともに犬の立ち位置や価値が変わり、狩猟の手伝いをしていた犬がただ側にいるだけで癒しと呼ばれる存在になりました。しかし、その一方で人間の身勝手な考えに振り回される犬もいます。犬は1万5000年前に家畜化されてから、いわば人間に依存して種を残してきました。集団を作って狩りをする野生のイヌの姿はもうありません。生かすも殺すも人間次第なのです。

長く人間の側に寄り添ってくれた犬たち、これからも人類最良の友と呼べるように一度立ち止まって考える時がきているのかもしれません。

まとめ

  • “ミアキス”という哺乳類が食肉目の祖で、そこから分岐してイヌ科が生まれた
  • 約1万5000年前、犬を家畜化、人類史で初めての家畜化に至る
  • 産業革命時代のイギリスがブリーディングを活発に行い犬の見た目に差が生まれる
  • ここ200年間の間に現生犬種がほぼ出揃う
  • 安定して選択的な交配ができるようになった反面遺伝による健康問題が出てくる
  • スタンダードという概念によってより犬種のクオリティが上がる
  • スタンダードにのっとって断尾・断耳を施す犬種は身近だが、社会の認識がいまいち

私も調べていて思ったのですが、イヌの詳しい生態や歴史についての一般向けの書籍が少ない!!!愛玩犬、特に国内で人気の小型犬についての飼い方マニュアルが目立ち、しかも発行年数が最新のものが少ない印象…。

情報不足が辛い中ですがその中でも詳細に書かれている書籍を参考にわかりやすくして見ましたが…いかがだったでしょうか?なるべく要点を絞って書いたつもりでしたが、人様に読まれることを意識して書くとなかなか難しいですね…これを毎日繰り返してるブロガーさんほんっとに尊敬します…!

オススメのイヌの本がありましたらこのボンクラに教えていただけるとありがたいです!

「犬」の本ではなく「イヌ」の本がもっと増えないかなぁと、印刷業界も厳しいこの時代に思ってみたりしました。

参考:原書房<イヌの博物図鑑> ペトこと ジャパンケネルクラブ 成美堂出版<2019年版日本と世界の犬のカタログ>

 

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